院長コラム

院長コラム

COLUMN

2022.09.05

プロ選手にとって足が重だるさが「少し」の問題ではない理由を考える

身体を動かすことで生活を成り立たせている人はとても多い。そしてスポーツでプロの選手として第一線にい続けることは想像することが一般的には難しい。身近にそういう人が少ないからだ。

サッカーや競輪、バスケットボール、ゴルフなどのスポーツ選手が静脈瘤のクリニックにやってくるときは悩みの質がとても繊細で、足が試合のときにどうなるのかを細かく聞くことになる。足が「重だるい」とひとことで済ますことはほとんどない。文字通り生活がかかっていて、その生活は足の機能が少し落ちることで来年も保証されているわけではないからとても真剣になるのだと思う。転職するかのように他のスポーツに移行すればいいとはならないからだ。

選手であり続けることはとても大変なことだと診察をしながら僕は感じる。いつもぎりぎりのところを走り続けているように思えるが、そこから見える景色は何ものにも変え難いもので、僕には想像すらできない世界が広がっているはずだ。

彼らには「年だから」などという言葉を投げかけることは、すなわちあなたはそろそろ…と引導を渡していることになってしまう。他の人間や医者からは年だからしょうがないと言われているこの下肢静脈瘤という病気は、よけいにそういうことになりかねないのだ。「年だから」で済まされないのである。

だからこそ、彼らは足の違和感に敏感だ。しかし、医療を提供する側としてはそれに十分応える事ができているとは思えない。「血管が少し浮いているけれども、これは特に問題ないでしょう」などと彼らに超音波検査もせずに目視だけで間違っても言うことはできない。

一般人にとっては「少し」なのかもしれないけれどもその「少し」はプロの世界では東海道線と新幹線くらいの違いがある。そしてその「少し」が理解できるのはそれを専門に診ているところでないと判断ができない。骨のレントゲンをとって骨には異常がありませんと言っているようなところでは話にならないからだ。骨に異常がないのなんか分かっているのに、少しでも単価を上げるために余分な検査をするのは涙ぐましい努力なのかもしれないが、患者の涙がそれで少しでも止まるわけではないのだ。

蜘蛛の巣のように細かい血管や、網の目のような血管がふくらはぎや太もも、足首やくるぶしに浮いていたらそれは下肢静脈瘤と診断される。そしてその治療法は硬化療法という注射の治療だ。浮いている悪い血管にそれぞれ注射をして悪い流れを潰していく。この下肢静脈瘤の治療もほとんどの施設ではやられていない。そんなに細い血管に針を入れて注射するのが難しく、やり方によっては色素沈着などの合併症を引き起こしやすいからだ。そして料金も安いため導入する施設も少ないのである。静脈瘤のクリニックですらやっていないところもあるのだ。それだけ面倒が多い治療を僕は何でやっているのかというと、症状がそれで改善することが多いからだ。ついでに見た目も良くなる。

足のだるさや、むくみ、冷え、ジンジンした痛み、張ってくるような痛み、こむら返り、足がつるといった症状はこれらの細かい糸ミミズのような下肢静脈瘤によるものなのかもしれない。これらの症状と下肢静脈瘤が繋がっているなんて想像することすら難しいだろう。僕だって最初の頃は見た目を治す治療なんだろう、クレームも多いしめんどくさいなと思っていた。しかし、この治療をたくさんすることで患者さんたちが、痛みや冷え、違和感などから解放されたと喜んでいるのを見て、どうやらこの治療は見た目をついでに治す治療なのかもしれないと思うようになったのである。それから僕は血管がボコボコ浮いていないけれども、こういった細かい血管が出ている患者さんの訴えを聞いていった。そしてこの治療の経験を積み重ねていくことで治療しにくい症状があることに気がついた。

治療しにくい症状は「しびれ」だった。しびれの程度は半分くらいにはなっても、それが気にならないほどにはならなかったのだ。しびれの原因によって治療効果に影響してくる事がわかった。最も治療しにくいのは背骨に原因がある場合だった。ヘルニアや狭窄症などの背骨から足に向かって出ている神経が挟まれたり炎症を起こしたりしている場合は根本的な治療がなされない限り、治療効果は半分程度にとどまった。それ以外のしびれは改善が見込まれる事が多かったのだ。

これらは論文になることもないだろうし、教科書にも載ることはない。そのエビデンスが可視化できるものではなく、その人の主観的な指標に頼らざるを得ない(最も10段階でスケールすることはできるが、それだけでひとつの治療法であると断言できるほどのエビデンスにはなり得ないと思う)。エビデンスがないのであればそんな治療は意味がないと切って捨てるのは簡単だ。周りは好きなように言うだろう。しかし、この治療に合併症やリスクやクレームが起こりやすかったとしても、その先に「どこにいっても治らなかったのが、本当に楽になった、ありがとう」という言葉を直に患者さんからもらうと、そんな苦労は何処へやら行ってしまう。

プロの選手だって観客からのあたたかい拍手や声援を求めているのだろう。その声が大きいか小さいかの違いはあるだろうけれど、「ありがとう」と言われたくて僕は医者をやって生きているように思う。それがなくなったら生きているのも面倒くさいなとぼやいてしまうかもしれない。白衣というユニフォームを脱ぐのはまだまだ先になるのかもしれない。

関連記事
ご予約・お問い合わせ
CONTACT

初診以外のご予約・ご相談は、
お電話でのみ承っています。

静岡静脈瘤クリニック

〒420-0858 静岡県静岡市葵区伝馬町8-1
サンローゼビル2階

診療時間
9:00 - 11:30××
13:00 - 16:30×××

おもに手術となり、外来は午前中となります。
月に一度、無料静脈瘤チェックを開催。日時はお知らせをご覧ください。

※完全予約制
※ご来院の際は健康保険証・マイナンバーカード・お薬手帳をご持参下さい。
※駐車場はございません。お近くのパーキングエリアをご利用いただくか、公共交通機関をご利用ください。(提携駐車場はありません)

※患者様へのご案内(保険医療機関における書面掲示)
・明細書について
当院は療担規則に則り明細書については無償で交付いたします。
・一般名での処方について
後発医薬品があるお薬については、患者様へご説明の上、商品名ではなく一般名(有効成分の名称)で処方する場合がございます。
・医療情報の活用について
当院は質の高い診療を実施するため、オンライン資格確認や電子処方箋のデータ等から取得する情報を活用して診療をおこなっています。

ご予約について
Web予約(初診)

Web予約
(初診)

LINEで相談

LINEで
相談

アンカー